「石のまち」である、宇都宮市大谷町。
石材産業の衰退、観光業の衰退を乗り越え、今ふたたび観光スポットとして注目されています。
数年前までの大谷で観光するイメージは、大谷資料館に行って地下空間を見学、そのまま市内に折り返してギョウザを食べる。そんな感じで、長時間大谷に滞在することは、あまりイメージできませんでした。
しかし、近年は新店が複数オープン。市営駐車場から大谷観音や大谷寺周辺まで、歩く観光客の姿が増えました。
 
以前、大谷の観光が栄えていたのは1980年代まで。その遺構がまだ残っています。
これまでMET不動産部で扱ってきた、『大谷コンプレックス』等の物件、そして「大谷でできることを増やす場所」OHYA BASE。
それらの物件は、いずれもそれ以前からの時代の建物を改修しています。
 
さて、今回紹介するのは「元住居兼、店舗兼、事務所兼、大谷石造倉庫、車庫付き」の物件。
市営駐車場からもほど近く、バス停「大谷観音前」目の前。
なんと敷地が、西は大谷街道、東は大谷公園に面しているという立地です。
以前、みやげ物店を営んでいた時には、実際に大谷公園との間を、人々が行き来していたというから驚きです。
バス停側から敷地を抜けると目の前に、大谷観音が鎮座しています。
 
この建物、もともとは石材店でした。
当時の表札が今も建物に残っています。
敷地の目の前は、大谷石を運ぶ線路が走っていた場所でもあり、かつての繁栄が偲ばれます。
その後はみやげ物店を営み、最終的には2019年の洪水により1階が浸水するまで住居として使用されていました。
 
築年は不明、公に記録されているだけでも、3回の増築歴。売主さんによると少なくともさらに2回は増築しているとのこと。
増築を繰り返し、大谷石造、木造、鉄筋コンクリート造が混在する建物は、まさに迷宮。
もともとの傷みに加え、浸水により床を撤去した箇所があるため、改装は必須です。
 
この地域は市街化調整区域に該当することに加え、大谷石のがけに挟まれていることから、法令上、建物の新築が難しい場所。既存の建物を活かせる人を求めています。
 
大谷観音の参道は、南側と北側の2つしかありません。
市営駐車場からの道と、大谷寺前からの道。この2つの参道の中間地点にあたるのがここ。
南北を大谷石の絶壁に阻まれたこの敷地は、再び第3の参道になりえるかもしれません。
市営駐車場、大谷寺、大谷資料館。微妙に距離があるのですが、それぞれの間に新店が出店。歩く人の姿もかつてより増えているのですが、回遊性のかなめになる立地なのが今回の物件です。
 
建物は色々な空間が合わさったようなつくりなので、複合的な機能を持たせたいところ。
大谷街道側には、石材店の事務所として使われていた、15帖ほどの部屋。
1階の住居部分の空間も合計で40帖程度あります。
それぞれに入口があるので、大谷街道側と、大谷観音参道(仮)側の両方から入口が取れます。
隣接する石倉へは内部からのアクセス。なかは薄暗く、なにかを保存するのにもぴったり。また、日中でも照明の演出ができるので、スペシャルな店舗空間としても使えそうです。
 
オフィス機能と、店舗機能を備えるプロダクト制作の拠点。
観光客が気軽に立ち寄れる空間と、プライベート間のある個室が共存する飲食店。
石造車庫をそのままの機能で活かすなら、プレミアムな観光体験を提供する小型モビリティによる観光の拠点。
注目のエリアながら、新規出店の余地があまりないエリア、そしてこの立地なので、様々な想像ができます。
 
少しハードルはお高めの本物件。大がかりな改修の投資は避けられません。
また、かつては通り抜けできた大谷観音との敷地の境界には、現状フェンスがあり通り抜けられません。
通行するには市との協議を要し、かつ通れるようになるとは限りません。
 
しかし、このまま衰退していくかと思われた大谷の観光は、地元の人々、新たな出店者の手によって変わりつつあります。
そのようななか、この迷宮のような建物は、地域に新たな深みと面白みを与えてくれる存在になることでしょう。
(田村)